今年の春はまさに三寒四温。はっきりしない天気に桜も少し戸惑っているように思われる毎日です。令和7年度の年度初めにあたり一言挨拶を申しあげます。
まず初めに、ご参会の皆さん一人一人が「自他相愛」の理念に基づいて日々業務に当たっていただき、法人の運営が順調にすすめられていることに感謝いたします。おかげさまで、この地域社会の中で当法人が障がい者の福祉増進に貢献するとともに、障がいのある方やそのご家族の生活に大きく寄与することができていると考えているところです。
令和6年度を振り返ってみますと、新居住棟の建設と付帯工事が完了し、個室での新しい生活が始まりました。夏、秋のふれあい祭りが前庭で開催されて、地域の方々との交流を新しい形で再開することができました。それぞれの担当者にはいろいろ御苦労もあったと思いますが、これから長くこの形で続けられるものと思います。今後ともよろしくお願いしたします。一方で、夏のインフルエンザのまん延、冬のノロウイルスの発生、継続して発生を続けるコロナウイルスなど、感染症に悩まされる状況も続いております。あらゆる感染症を想定して常日頃より対策を怠らないことが重要であると改めて確認させられました。
話は変わりますが、今日は気になったニュース・出来事の中から2つ話をしてみたいと思います。一つは、78歳の父親が、重度の知的障がいと身体障がいを持つ44歳の息子を殺めてしまい、この3月に執行猶予の付いた判決が確定した事件です。被告は神奈川県で暮らしていましたが長期入所できる施設が見つからず、病院からも受け入れてもらえず、自治体からも道を示してもらえず、近所に迷惑をかけたくないと千葉県に転居したものの、自傷を繰り返す息子に家族での介護に限界を感じて「これで終わりにしようと思った」と述べています。裁判では、「被告のみに責任を押し付けるのは酷」と判断され、短期入所で介護にあたった職員は「プロでも複数の職員であたらなければならない状況、家族でみることは困難」、「社会の中で、制度や施設、人的資源の整備が必要」と述べています。どうしたらよいか簡単に答えが出る問題ではありませんが、やりきれない思いの残る出来事でした。
もう一つは、市内の小学校の校長先生が「心の輪を広げる体験作文」で優秀賞をもらった話です。作文の題は「マサちゃんのこと」。先生のいとこで重度の知的障がいと自閉症を持つマサちゃんは、家族からも親戚からも愛されて育ち、大人になってからもグループホームで優しい所員さんたちの間で穏やかに暮らしていたのですが、コロナの影響で肺血栓症を併発しバタンと倒れて亡くなりました。葬儀の場で先生は、年老いたマサちゃんのお母さんが「自分たちがいなくなった後のマサちゃんが心配で仕方なかったから、先に亡くなったマサちゃんは『親孝行』だ。」と言ったのを聞きました。これが、先生が作文を書くきっかけでした。先生は言います。「障碍のある人とない人の温かい触れ合いがたくさん生まれる一方で、偏見や根拠のない誹謗中傷は、当事者だけが見える陰の中に、実はまだ確実にはびこっている。みんなが安心して暮らしていける社会になるといい。」。先生は作文を書くことによって、こうした現状を広く社会に訴え、皆で共有したかったのだろうと思いました。
このようなニュースや出来事は繰り返し報道されているように思います。私は、社会の一人一人がこうしたことに想いを馳せ、もっと議論を深めていくことが必要ではないかと思っています。
先日、当法人に長く入所していた高齢の利用者さんが体調を崩して病院へ移送する手続きをしているさなかに亡くなるということがありました。ご家族は、「きっとここで死にたかったのだと思います。長い間お世話になり本当にありがとうございました。」と言ってくださったそうです。私はこの話を聞いて、何とも言えない気持ちになったことを覚えています。私たちの役割が果たせたかなという気持ちでしょうか。
障がい者に係る専門職として皆さんはこうしたニュースや話をどう受け止めるのでしょうか。会議や研修、時には地域社会の中で、機会があれば自分なりの意見や提言をしていくことがあってもいいと思います。
コロナウイルスやノロウイルスへの対応は、ガイドラインやマニュアルに沿って誰に対しても同じように厳格に行われなければなりませんが、障がいや困難を抱える人への対応は、障がいの特性や個別の行動に即したマニュアルを踏まえて、当事者の気持ちに寄り添いおもいやる心が大切だと思います。利用者が高齢化する中で、日々の職務は大変だと承知していますが、困難なことがあっても一人で抱えずに周りの仲間とコミュニケーションを取り合って乗り越えて欲しいと思っております。
利用者さんが安心して過ごせる環境づくり、職員一人一人が笑顔で気持ちよく働ける職場づくりを進めていけることを願っております。
令和7年4月1日
社会福祉法人安房広域福祉会
理事長 平井良明